東京の下町にある居酒屋『味鱒』
その２階の一室に集う男たちがいた．
それぞれの情報端末機を眺め，
各々の意見を提案し議論を重ねる．
今は縮小の一途を辿るカセット・テープ．
デジタル・オーディオ全盛の時代
それでもテープを愛し，使い続ける人たちがいる．
しかし新製品の大半は海外製
かつては多くのメーカーが競い合い，
いくつもの魅力ある製品が乱立した．
いまは見る事も少なくなった
高音質・高性能なカセットデッキ．
もう一度，その輝きを取り戻すため
各社をリストラされた開発者，技術者たちが結集した！
これは，カセット・デッキとテープの復活に
情熱を注ぎ戦いに挑んだ者たちの
壮絶な物語である．
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一から立ち上がった極秘のプロジェクト
資金を提供してくれるカセット愛好の資産家
そのスケジュールは順調な滑り出しだった．
キャプスタン，メカ駆動に使用するベルトには
柔軟性に富み，高い耐久性を併せ持つ素材を．
そして録音・再生の要となるヘッドには
人工ダイヤを超微粉砕し液状化させ，
薄膜３ヘッドに蒸着を施して
テープの磨耗からガードするものを採用．
しかしＮＲ(ノイズ低減システム)搭載で
意見が二つに割れたのである．
従来のDolby方式で，互換性を保つべきとする者
新開発のコード・ネーム『Ｊ』を強く推す者
それまで一つに纏まっていたチーム内に亀裂が走り
計画中止の危機に直面する．
プロジェクト・リーダーの○○は頭を抱え込んだ．
潤沢だと思われた資金が底を尽き始め
プレス発表の期日が間近に迫っていた．
製品発売まで，残り半年の頃の事である．
※２０１１．１．30(一部加筆)
